マレーシアのアーティスト、グラフィティライターFahmi Reza(ファヒミ•レザ)のこれまでの作品や活動を回顧的に展示する展覧会「12 years of visual Disobedience」がクアラルンプールのFive Arts Centerで開催されている。彼とは1年前のアジアリサーチで最後に訪れたクアラルンプールで出会った。facebookページにあった彼の展覧会の概要を英訳してみる。
An exhibition of Fahmi Reza's political posters, curated by Wong Tay Sy.
Featuring political posters, graphics and objects made by designer-activist Fahmi Reza since 2002, this exhibition brings together a wide collection of images that have been shown in diverse contexts - ranging from guerilla interventions to political protests, Facebook graphics to designs in solidarity with Malaysian and international causes.
Fahmi Reza is a self-taught graphic designer, arts worker and political activist based in Kuala Lumpur. As a political graphic designer, he has been openly critical of the government through his work, and have been arrested and banned for his activism. In 2007, he directed the critically-acclaimed historical documentary '10 Tahun Sebelum Merdeka', which was awarded the Most Outstanding Human Rights Film at the 2007 Freedom Film Fest. He was also a key figure in the Occupy Dataran movement in Kuala Lumpur. He is currently banned by the Sarawak government from entering the state because of his activism work.
訳)
デザイナー/アクティビスト、Fahim reza(ファヒミ•レザ)による政治的ポスター、グラフィックやオブジェ作品を取り上げた本展覧会では、政治的プロテストへのゲリラ的介入から、マレーシア、そしてインターナショナルな諸運動への連帯を示すためにデザインされたFacebook上のグラフィックまで、幅広い文脈の中で提示されてきたイメージのコレクションを一挙に展示するものです。
ファヒミ•レザは、クアラルンプールを拠点に活動するグラフィックデザイナー、アートワーカー、政治活動家です。独学でグラフィックデザインを学んだ彼は、政治的グラフィックデザイナーとして、自らの作品を通じて公然と政府に対し批判的であり続けたことで、逮捕そして活動そのものを禁止されている状況です。2007年には自ら制作した歴史ドキュメンタリー「10 Tahun Sebelum Merdeka」が高い評価を受け、その年のFreedom Film Festにおいてもっとも優れた人権映画であるという称号を授かりました。彼はまたクアラルンプールでのOccupy Dataranの中心メンバーでもあります。また現在彼は、これまでのアクティヴィズム的作品によってサラワク州政府から州内への入国を禁止されている状態にあります。
この展覧会のキュレーターのTay Syは、調べてみると2008年に「Emergency: A Multi-Arts Festival」というポリティカルな内容を含む展覧会も企画していたとのこと。
1年前、彼と出会った時のことを思い出す。当時、ファヒミと彼の仲間たちは、クアラルンプールの中心、チャイナタウンの近くにあるムルデカ公園跡地の工事現場の一画で「Reclaim Merdeka Park」というオキュパイアクションを行っていた。それは、20年前まで存在していた公共都市公園メダルカ公園が政府によって民間デベロッパーに売却され高層ビル建設が建設されることに対して、都市のジェントリフィケーションに対するプロテストアクションだった。毎週末に工事現場の一画に集まり、敷物をしては座り込んで、絵やポスターを制作しつつ出来上がった作品を工事現場の壁に貼り続けていた。
マレーシアでこのような直接行動と文化的アクションのハイブリッドが展開されていることに当時の僕は驚いたのだけれど、それは自分がマレーシアの戦後史、民主化運動の歴史をほとんど知らなかったことの裏返しでもあったし、何より、公共の場所や貧しい人たちの住宅街を民間企業の営利活動のために売り払うというのはアジアの都市再開発の常套手段だが、クアラルンプールも今まさにその渦中にあるのだということを知った。
オキュパイ•ムルデカに集まる人たちは、色とりどりのバナー、ポスター、ティーポットや小さな本棚を抱え、ピクニックシートや本物の芝生を敷いてその場所に座り込み、みんなで車座になって話し込んでいたり、本を読んだりして土曜の昼の時間をこの空き地で過ごしていた。そして絵の具や画用紙を取り出し、寝そべりながらドローイングやスローガンを描いて、出来上がるとそのまま後ろのフェンスにぺたぺたと貼っていた。青い壁には大小さまざまな言葉や絵、写真がちりばめられている。スローガンの一つにはこう書かれていた。「僕たちは何も売ったりはしない。ただここに座ってパーキング(Parkと-ingを掛け合わせた造語)を楽しんでいるんだ」。
そこでは、暑い南国の太陽の下、工事現場の一角で突如小さなピクニックが始まり、そして即席の野外展覧会が行われていたのだ。
ファミはドキュメンタリーやポスター制作を通じて、このような巨大資本に飲み込まれつつある都市の公共空間の問題を提起し続けている。「緑あふれる見晴らしの良い公園は赤茶けた工事現場に変わってしまった。再開発が進むたびに、街から人間の自由な空間がどんどん無くなって、お金と商品のための空間に変わって行く。この座り込みはもちろん建設反対ではあるけれど、それ以上に自分達がかつて公共の場所でどうやって過ごし、暮らしをしていたのか、そんな過去の都市の記憶を思い出してもらう意味もあるんだ」。
ムルデカ公園はすでに存在していない。けれども、彼ら/彼女らはかつて公園があった場所で公園での振る舞いを再演し、公園無き場所に再び一つの公園を生み出そうとしていた。抗議と創造を結びつけたアーティビズム(アート+アクティヴィズム)の数々の実践は、彼のような真摯な態度で創造と社会変革を望むアーティスト達によって、それぞれの闘争現場で生成してたのだ。
今回彼が逮捕され、活動を禁じられているという記述を見つけショックを受けた。東南アジアで表現者が政治的テーマに踏み込むことはやはり日本で想像する以上のリスクと覚悟が伴うのだと改めて思い知った。それでも彼の12年という長い活動と、そこか生まれた作品を一挙に見る機会がこのようにして実現するということは、とても嬉しく思うし、それはアジアでのアート/アクティヴィズムの地下水脈の系譜にとっても重要なモーメンタムになるはずだ。