マレーシアの首都、クアラルンプールの中華街。ミントブルーやイエローの古いコロニアル様式の建物や観光客でにぎわうアーケードを抜け、ゆるやかな坂道を登ってゆくとこんもりした丘とそれを囲む工事現場の青いフェンスが見えてくる。フェンスと道路の間のカーブには小さな空き地があり、毎週土曜日になるとそこに色々な人たちがやってくる。彼ら、彼女らは色とりどりのバナー、ポスター、ティーポットや小さな本棚を抱え、ピクニックシートや本物の芝生を敷いてその場所に座り込み、みんなで車座になって話し込んでいたり、本を読んだりして土曜の昼の時間をこの空き地で過ごしている。そして絵の具や画用紙を取り出し、寝そべりながらドローイングやスローガンを描いて、出来上がるとそのまま後ろのフェンスにぺたぺたと貼って行く。青い壁には大小さまざまな言葉や絵、写真がちりばめられている。スローガンの一つにはこう書かれている。「僕たちは何も売ったりはしない。ただここに座ってパーキング(Parkと-ingを掛け合わせた造語)を楽しんでいるんだ」。暑い南国の太陽の下、工事現場の一角で突如小さなピクニックが始まり、そして即席の野外展覧会が行われている。
実は、これはマレーシア人のアーティスト/活動家、ファミ•レザとリュー•ビッスヴォンのプロジェクト「Reclaim Merdeka Park」が毎週行っている座り込みの光景だ。ここにはかつてクアラルンプール中心部で一番大きな公園、ムルデカ公園があり、今は政府主導の大規模再開発プロジェクトの建設現場になっている。50年代の革新市政時代に建設され長らく市民の憩いの場だったこの公園は、90年代前半に再開発の為に取り壊され長らく放置された後、ここ数年で大規模金融センタープロジェクトの建設現場になってしまった。公共の場所や貧しい人たちの住宅街を民間企業の営利活動のために売り払うというのはアジアの都市再開発の常套手段だが、クアラルンプールも今まさにその渦中にある。
ファミはドキュメンタリーやポスター制作を通じて、このような巨大資本に飲み込まれつつある都市の公共空間の問題を提起し続けている。「緑あふれる見晴らしの良い公園は赤茶けた工事現場に変わってしまった。再開発が進むたびに、街から人間の自由な空間がどんどん無くなって、お金と商品のための空間に変わって行く。この座り込みはもちろん建設反対ではあるけれど、それ以上に自分達がかつて公共の場所でどうやって過ごし、暮らしをしていたのか、そんな過去の都市の記憶を思い出してもらう意味もあるんだ」。ムルデカ公園はすでに存在していない。けれども、かつて公園があった場所で公園での振る舞いを再演し、公園無き場所に再び一つの公園を生み出そうとしている。抗議と創造を結びつけたアーティビズム(アート+アクティヴィズム)の数々の実践は、今アジアの再開発の闘争現場で生まれて来ている。