何でも美味しい台湾だけれど、一番美味しいと思ったのはトビウオのスープだ。台湾の東の街、台東から船で2時間のところにある島、蘭嶼(ランスー)島で出会ったトビウオのスープは、これまで食べて来たなかで一番美味しいスープだった。まるまる一匹の大きなトビウオを寸胴鍋で煮込んでできた白濁のスープは、一口飲むとほのかな磯の香りと共に、魚のコクのある深いうまみが口の中に広がり、こんなに美味しいスープがあるのか、と舌が震えるほどだった。
台南でも、アークンが自分の車のバックミラーに括り付けているトビウオの干物を水でもどしてトビウオスープを作ってくれたことがある。少し塩辛かったが、それでもしっかりとした味で、茹でた麺や野菜にかけて食べるととても旨かった。早朝一番近所の市場で買って来たマグロやイカの刺身も新鮮だった。僕自身、原発事故以降、魚料理に関しては手を付けるのを躊躇してしまうこともしばしばあった。台南の海の幸を味わうことは、幸せを感じると同時に、日本が失ってしまったものの大きさ、途方も無さをも改めて教えてくれるのだった。